リサーチパーク鶴だより -第8便-
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リサーチパーク鶴だより
第8便
-日射量に比例した給液管理-
【はじめに】
秋が訪れ、ぐっと涼しくなりました。抑制栽培から促成栽培へと切り替わっていき、より戦略的に栽培することができる時期が訪れます。栽培の戦略を立てる上で、気にするべき要素は多岐にわたりますが、今回は「給液」に焦点を当てて、説明いたします。
季節が秋へと移ってから、作物への給液管理はどのように変更しましたか?また、その日の天気によって給液管理を最適化できていますか?
弊社では、「日射量に比例した給液」を推奨しています。つまり、日射量が多いときは給液を増やし、日射量が少ないときには給液を減らします。日射量に比例した給液は作物にとって大きなメリットがあります。それはどんなメリットでしょうか?「光合成」と「蒸散」への影響を中心に説明させていただきます。
【光合成】
日射量が多いと、作物は光合成をたくさん行います(ハウス内の温度・湿度、CO₂濃度が適切なとき)。そして、光合成を化学式にすると、下記のようになります。
6CO₂+12H₂O → C₆H₁₂O₆+ 6O₂ + 6H₂O
このように、光合成を行うには水が必要です。「晴れの日は光合成が盛んに行われるため、光合成の材料となる水の要求量が多い」ということです。作物の栽培において、大変重要な光合成を最大化させるためには、日射量に比例した給液が求められます。水の不足が光合成の制限因子になってしまわないよう心がけましょう。
【蒸散】
日射量が多い時の特徴として、ハウス内の飽差が高い傾向があることが挙げられます。蒸散は、植物体内の水が、水蒸気として植物体外に放出される現象です。そして、蒸散は植物体外の飽差が高いほど促進されます(植物体外の飽差が高すぎると、蒸散量に根の吸水量が追い付かず、気孔が閉じてしまいます。その場合、逆に蒸散は抑制されるので、注意が必要です)。蒸散は植物の生命維持には不可欠な活動であり、以下のような機能があります。
・蒸散によって、道管内に負の圧力が生まれ、根から受動的に水や肥料を吸収させる(図1)。
・根から吸収した水や肥料を、蒸散流(蒸散によって生まれた、植物体内の水の動き)に乗せて、体中に送る(図1)。
・蒸散により気化熱を奪うことで、葉面温度を下げる。
適切な蒸散ができていないと、必要な水や肥料が十分に吸収できないこと、生育不良になったり、要素欠乏 (肥料の吸収不足)を引き起こす可能性があります (写真1)。したがって、蒸散は植物にとって大変重要な活動なのです。
【日射量が多いときの給液管理】
日射量が多く、ハウス内の飽差が高い時には、蒸散が盛んに行われ、植物の体内から体外へ多くの水が放出されます。また、光合成によって水が使われます。この時、給液による水の供給が不足してしまうと、作物のしおれや焼け、光合成量の制限等の、水不足によるダメージを受けることになってしまいます。そういったダメージを防ぐためにも「日射量に比例した給液を行うこと」が大切です。
ポイント
蒸散量>根の吸水量 → しおれ・焼け → 日射量に比例した給液が大切!
【日射量が少ないときの給液管理】
曇りの日は、晴れの日に比べて日射量が少なく、飽差が低い傾向があります。日射量が少ないことにより、光合成が抑制され、飽差が低いことによって蒸散が抑制されます。したがって、植物が必要とする水の量が少なくなります。そのような曇りの日に、晴れの日と同じような給液を施すと、どのようなことが起きるでしょうか。作物が必要とする量を過剰に超えた給液によって、培地内の水分量が多くなり過ぎてしまい、培地中の空気量が少なくなる恐れがあります。培地内の空気量が過度に減少すると、根が酸素不足に陥り、根腐れ等の問題を引き起こしてしまう可能性があります(写真2)。
したがって、日射量の少ない曇りの日には、給液を減らす必要があります (図2)。
【さいごに】
弊社では日射センサーで日射量を測定し、それを基に給液管理を行う、「日射量に比例した給液」を推奨しております。次回の鶴だよりでは、給液に関わる、EC・pHについてのお話をさせていただきます。最後までお読みいただき、ありがとうございました!